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継国さん。

これまでのお話


 ――継国さん 継国さん

 陽の見櫓の神楽舞 お困りでしたらおいでませ

 南の躑躅の山奥に 鬼の屍踏み越えて


 継国さん 継国さん

 月の見櫓の剣舞唄 泡沫の夢に参ります

 北の椿の山奥に ぽとりと首を落としませ


 継国さん 継国さん…


 継国さん 継国さん……――



第壱話:白詰草

第弐話:ネガ

第参話:双子

第四話:鬼灯

第五話:山神様

第六話:累

第七話:沙羅双樹



 継国神社の神主である縁壱(よりいち)は、神社にお詣りに来た者の「死相(しそう)」を視ることができ、『浄化』することもできた。

 人の死は操作するものではない――そう思えばこそ、当人からの相談がなければ能動的になることはないのだが、こと、巫女を務めている胡蝶(こちょう)姉妹が絡むと、何かと事件に巻き込まれてしまう。


 一方、継国神社がある継国山(つぎくにさん)の麓(ふもと)、桜町(さくらまち)の外れでは、巌勝(みちかつ)が古書堂を営んでいた。彼もまた縁壱と同じく、幽世(かくりよ)と現世(うつしよ)を行き来する者の一人だ。

 巌勝は、幽体(ゆうたい)と心を通わせ、遺志を継ぐことができた。それは幽体を『依頼主』とし、依頼を完遂することで成仏する一助を担うという、『退魔』の力の一つであった。


 一夏。

 縁壱と巌勝は、共通の友人、刑事である悲鳴嶼(ひめじま)行冥(ぎょうめい)と協力をして、十年も前に行方不明になった、少女の事件を解決した。また、隣村・天津川村(あまつかわむら)で起こるはずだった事件を未然に防いだ。

 これらの事件には、古くから、継国地方に伝わる手鞠唄(てまりうた)が絡んでいるようだった。まるで二人の役目を象ったかのような唄の内容を、二人はずっと疑問に思ってきたが、事件を解決する過程では、その唄を広めたと思われる、手鞠唄の子供には辿り着けなかった。たまたまその姿を見た胡蝶姉妹も、縁壱になりを伝えるのみで、思い当たる節は全くない。(~第壱話:白詰草・第弐話:ネガより)

 夏の終わりには、カナエが夢に翻弄され、巌勝の元にはその夢の関係者である依頼主が現れた。四人、導かれたように、とある旅館に足を運ぶことになったが、それもまた、手鞠唄の子供が招いたことだった。

 巌勝はその依頼を遂行する過程で、縁壱が「見えない」ことには理由があることを知る。手鞠唄の子供も継国の死渡(しと)の一人であることを聞き、少しずつ、現世での幽世関係者が明らかになっていくのだった。(~第四話:鬼灯より)

 折しも双子は、手鞠唄の手がかりを手に入れたばかりだった。その最中、巌勝は一つの決意をしたのだが、それはまだ、縁壱の知らぬ選択でもあった。(~第参話:双子より)


 慌ただしかった夏も過ぎ、継国山には一足早く、冬がやってくる。

 例年のことながら、出雲(いずも)で神在月(かみありづき)を迎えるにあたり、継国では、縁壱により、山神様(やまがみさま)の出雲への出立を祝う舞の奉納が行われることになった。

 その日、巌勝は、継国山ロープウェイを設置した一族の大物、石原権藏(ごんぞう)氏の三十三回忌の法事に出ており、神社はもぬけの殻だった。

 霊峰・継国山にひたひたと忍び寄るのは、禍(まが)い者なのか、それとも。

 巌勝に逢うため京(みやこ)から訪れた一人の若者、矢琶羽(やはば)が、その日一日、双子の身に起こるはずだった出来事に巻き込まれ狂わせていく。それは、四十三年前継国山で起きた一つの事故に関わることであり、当時も今も、真相は藪の中であった。

 意図せず矢琶羽が巻き込まれた事件は解決したが、腑に落ちない縁壱は、翌日、巌勝らと共に、当時、事故の調査に携わった刑事の元を訪れることにした。その者、神々廻(ししば)双雲(そううん)は、継国神社の先代、継国勝家(かついえ)――双子にとっては父親だ――の相棒でもあった。

 そうして全てが明らかになった時。巌勝は、縁壱が見えない理由を何となく理解した。

 縁壱はこの先のことを考え、兄に「産屋敷(うぶやしき)地方へ」と助言する。

 だが、二人思うところは全く噛み合わず喧嘩になり、見守っていた矢琶羽や胡蝶姉妹は腹を抱えた。(~第五話:山神様より)

 京へ帰る気配のない矢琶羽に、巌勝は、縁壱と共に継国へ来た目的を聞くことになった。それは継国の死渡にも関わる案件であったが、一方で、手鞠唄のあらましをも知ることができた。双子は継国の案内人(あないにん)が誰であるのか複雑な状況も理解はしたが、そもそも矢琶羽の願いを叶えるには、幽世への門を長時間開いておく必要がある。それは、いかな縁壱とはいえ現世では、負担の大きい事案であった。

 巌勝は、回答を一旦保留にした。どうしても、とある者の協力が必要と考えたからだ。仕方なく、答えが出揃うまで、矢琶羽は学校へ行かせることに。編入させることが、彼の目的の一つを叶えることにもなるからだ。

 早速、旧い友・累(るい)と再会を果たした矢琶羽。巌勝の方は、京より求めていた回答を得ることは出来たが、秋のとある会合の日取りが既に迫っていた。(~第六話:累より)


 京での秋の会合を一週間後に控え、段取りを整えていた巌勝は、その日の朝、しのぶから思いもよらないメールを貰った。

「縁壱さんに、死相が出てる」

 弟に限って、そんなはずはない――。思うが、一抹の不安を拭いきれない巌勝は、矢琶羽達の帰宅を待って、継国山を登ることにした。

 その頃縁壱は行冥に呼び出され、新胡桃市は外れの国立公園に赴いていた。目にした光景と行冥の話は突拍子も無いものであったが、無碍にも出来ず、『依頼』を受けることに。だがそれは、命に関わる強大な力との対峙を招くことになった。

 縁壱の命を付け狙う彼の者は、果たして禍い者なのか、それとも。矢琶羽を通して親しくなった累をも巻き込んで、巌勝は、事件の解明に動き出そうとする。しかし、縁壱の無事を確かめるために山を登った一行は、かつて、自分らが犯した罪とも向き合わなければならなくなる事実に直面してしまった。

 そんな中、縁壱がとうとう倒れてしまう。

 巌勝の行動は制限され、事件については行冥の報告に頼ることに。縁壱が受けた依頼も、他の神主が受けるべきだと巌勝は判断したが、縁壱は、痣(あざ)の発現を代償に、目を覚ました。

 取り乱す縁壱と、未来を信じた巌勝。

 それは、これまでこなしてきた依頼の数々がもたらした絆の深さが、導いた一つの答えだった。巌勝の言葉に平静を取り戻した縁壱は、行冥の、当初の依頼を巌勝と共にこなす。それは、四年前、新胡桃市で起こった悲惨な事件の解明にも繋がることになり…ひとまず、危機を脱することはできたのだった。


 継国の双子の周りに集い始めた、死渡達。そして、折り重なっていく罪の過去。

 継国神社に、暗雲が立ちこめる。(~第七話:沙羅双樹より)

これまでのお話: テキスト
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